自動運転で起こる事故の責任は誰が負うのか?今後の見通しを解説

現在、自動車メーカーが開発を積極的に進めている技術に自動運転があります。ヒューマンエラーが避けられない以上、交通事故の発生は必然的ですが、コンピュータ制御による自動運転によって交通事故が激減することが期待されています。

しかし人間の故意・過失による事故であれば、それは事故を引き起こした人間に責任を問うことができますが、自動運転を制御するコンピュータのエラーによって事故が起きた場合、その責任の所在はどこにあるのでしょうか。

実は明快な答えは、いまのところ存在していません。

ですが、自動運転技術のレベルが高まるにつれ、ドライバーの法的責任や、自動車保険のしくみが変わっていくことは避けられません。そして、その変化に対応できるための法的なインフラの整備は、自動運転技術のさらなる発展には欠かすことができないものです。

この記事では自動運転の高度化と普及にともない、ドライバーの責任、メーカーの責任、自動車販売店の責任、そして自動保険業界がどのように変わっていくか、詳しく解説します。

自動運転のイメージ

【前提知識】自動運転のレベルとその概要を紹介

一口に「自動運転」といっても、そのレベルはさまざまです。

少なくとも2018年現在、生産・流通している車においてドライバーの事故責任が免除されることはないと考えられています。

自動運転の6つのレベル

具体的に自動運転のレベルについて見ていきたいと思います。

2020年までの高速道路での自動運転、限定地域での無人自動走行移動サービスの実現を目指すことを掲げ、公表された「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」(PDFファイル)において、自動運転は5段階のレベルに分けられています(なお、まだ確定してがいませんが、最新版として「官民 ITS 構想・ロードマップ2018(案)」が公表されています)。

この分類は、Society of Automotive Engineers(SAE) International という技術者団体が作成した基準J3016に基づくもので、国際的に用いられています。

上のファイルを参考に、自動運転のレベルを分けたのが次の表です。

SAEレベル 概要 運転に係る監視・対応主体
SAEレベル0 運転者が全ての運転タスクを実施 ドライバー
SAEレベル1 システムが前後・左右のいずれかの車両制御に係る運転タスクのサブタスクを実施 ドライバー
SAEレベル2 システムが前後・左右の両方の車両制御に係る運転タスクのサブタスクを実施 ドライバー
SAEレベル3 システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内)
作動継続が困難な場合の運転者は、システムの介入要求等に対して、適切に応答することが期待される
システム(作業継続が困難な場合はドライバー)
SAEレベル4 システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内)
作動継続が困難な場合、利用者が応答することは期待されない
システム
SAEレベル5 システムが全ての運転タスクを実施(限定領域内ではない)
作動継続が困難な場合、利用者 が応答することは期待されない
システム

ご覧になればわかるように、レベル0は完全に人力で操作するものであり、レベルが上がっていくにつれ徐々に「完全自動運転」に近づくことになります。

自動運転・安全運転支援技術については、トヨタの「Toyota Safaty Sense」、日産の「プロパイロット・エマージェンシーブレーキ」、ホンダの「Honda SEISING」、メルセデス・ベンツの「ドライブパイロット」などがありますが、いま流通している車の自動運転レベルは2といえるでしょう。

事実上、高速道路などでアダプティブ・クルーズ・コントロール機能とレーン・キープ・アシスト機能を利用することで自動運転システムに任せることはできても、ドライバーは周囲の状況を常に監視しなければなりません。

SAEレベル2までの場合、ドライバーに法的責任は問われる可能性が高い

それでは現在流通しているSAEレベル2までの自動運転機能が搭載されている車に乗っているドライバーの法的責任はどうなるのでしょうか。

結論から書くと、ドライバーは法的責任を負う必要があると考えられます。

車の所有者に賠償責任を負わせる政府方針が決定

2018年3月に、限られた条件で運転を自動化するレベルにおいては一般自動車と同様に所有者に賠償責任を負わせる政府方針が示されました(参考:自動運転中の事故、車の所有者に賠償責任 政府方針)。

自動運転である以上、そこには「ドライバー」がいないのではないか、そうであるなら「ドライバーに責任に負わせるのは間違いなのではないか」という意見もあります。しかし法的にはドライバー/所有者に賠償責任を負わせることは問題ありません。

自賠法の3条を見てみましょう。

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

「自賠法」第3条

ドライバー(運転者)の有無について問われているわけではないことがポイントです。運行供用者責任として、車の所有者は賠償責任に問われてしまうのです。

もっとも、法的に問題がないからといって、ただちにそれが社会政策上好ましいとはいえません。実質的には、一般のドライバーが「自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明」することは困難です。

つまり、自動車メーカー側の製造物責任をユーザーに転化し、責任をおしつけるように機能する可能性があります。

そのリスクを考慮に入れてか、完全自動運転の場合の賠償責任については政府はまだ「検討中」と態度を保留しています。

日本損害保険協会の見解

自動運転の発展により、従来とは異なる法的責任が生じる可能性があることから、日本損害保険協会もまた、自動運転の法的課題について検討を行っています。

公表された報告書によると、対人事故については自賠法に基づき運行供用者の責任が課せられ、対物事故においても過失に基づき損害賠償責任を負う現在の考え方が適用できるとしています。

「完全自動運転」において、法的責任の関係はどうなるのか

それでは「完全自動運転」とも呼ばれるレベル5、完全にシステムに依存する自動運転システムにおいては、誰が責任を負うことになるのでしょうか。

またレベル5が実現した場合、どんな問題が生じるのでしょうか。

「ドライバー」の消滅と、被害者補償のゆくえ

日本損害保険協会の報告書では、レベル5については、いままでの「ドライバー」という概念が存在しないため、責任のありかたについては根本的な見直しが必要になるのではないかという見解が述べられています。

これは考えてみれば当たり前かもしれません。レベル4の自動運転では、ドライバーがまったく走行に関与することなく、完全にシステムに依存する以上、ドライバー(運転手)というよりは、単なる「乗客」と呼ぶほうが適切です。

責任の主体はメーカー、販売店にあり?

レベル5についてはまだ実現されておらず、各所で検討が進んでいるという段階ですので、正直に言うと、確実にいえることというのは少ないのが現状です。ただ、ドライバーが消滅したからといって、事故に対する責任の主体が消えるわけではないのは確実です。

まず、事故を引き起こすようなシステム搭載した自動車を製造したメーカーに、製造物責任法に基づく責任が生じることが考えられます。

次に販売店には、不法行為責任・契約不履行責任が問われる可能性があります。

被害者への補償の遅れが懸念される

とはいっても、事故被害者が、メーカーや販売店に補償を求め、現実に補償を実現することは簡単なことではありません。

製造物責任法において、製造者の「故意・過失」の証明責任を負うことはないといっても、被害者は、製造物の欠陥の存在、そして欠陥と損害の因果関係を証明しなければならず、あくまでも証明責任は被害者側にあります。

高度な技術の集合体である完全自動運転システムの欠陥を証明すること、その欠陥と自分が受けた損害の因果関係を立証するのは一般人が行うのは極めて難しいものだと予想されますし、またそれができたにしても、かなりの時間を要するのはいうまでもありません。

販売店への損害賠償請求にしても、被害者に証明責任があり、同様の難しさがあります。

東京海上日動火災保険の自動運転中の事故を補償する無料特約

ドライバーという概念が消滅し、法的責任が複雑化することによって、被害者補償への対応が遅れる可能性が見込まれるなか、自動運転中の事故も補償範囲に含め、迅速な被害者救済を実現するために、いち早く対応したのが東京海上日動火災保険株式会社です。

東京海上日動火災保険は、2017年4月以降に契約するすべての自動車保険に「被害者輔救済費用等保障特約」を自動付帯することを決定しました。

この無料特約は、被保険自動車の欠陥や、ハッキング等が原因の事故については、ドライバー等の被保険者に課せられる責任の有無にかかわらず、被害者対応が可能になるというものです。

現行法のもとでは、この特約の補償対象となる事故の発生は想定しにくいものの、将来起こりうる問題を事前に対応する姿勢は貴重なものといえるでしょう。

自動運転技術が進むなか、万が一にでも被害者が補償の対象外の立場に長くおかれることがないような措置が求められているといえるでしょう。

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