2016年12月15日にカジノ法案が、自民党、日本維新の会の賛成多数のもと、成立しました。この「カジノ法案」という名称は、いわば俗称で、正確には「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(IR推進法)といいます。
この法案へ反対する立場の人は「カジノ、ギャンブルの合法化」をクローズアップして問題としていますが、IR推進法はカジノという視点からだけではなく、さまざまな角度から見ていかなければ、全貌を掴むことはできません。
そもそも「IR推進法」の「IR」とは統合型リゾート(Integrated Resort)のことです。主眼は「統合型リゾート施設の設立」にあり、その施設の一部としてカジノが組み込まれているだけなのです。
この記事では
- カジノ法案の目的、成立の意義
- 現実に日本でカジノが、いつ誕生するのか
- カジノが合法化された際に引き起こされるリスク
など、カジノ法案の位置づけと、今後の見通しを詳しく見ていきます。
カジノ法案は成立したが、カジノ実現の道は遠い
まず知っておきたいのは、カジノ法案が成立したからといって、それだけでカジノが実現するわけでもなければ、ギャンブルが合法化されたわけでもないということです。
この法律はあくまでもプログラム法(政策を実現させるための手順、日程などを規定した法律)であり、「カジノ法案成立=カジノ合法化」というわけではありません。
このIR推進法を受けて、ギャンブル依存症への対策、規制内容などを盛り込んだ「IR実施法」を国会に提出し、それが可決されて、初めてカジノの合法化への道が拓いたといえるのです。
IR推進法は、カジノの法制度化への入口をつくっただけで、カジノ施設の実現には、まだまだ時間がかかります。
カジノ実現に向けてのハードル
カジノが実現するためには、いくつかの段階、ハードルが残されています。どんな問題があるのか順に見ていきましょう。
IR実施法案の成立が必須
既に触れたように、2016年年末に可決されたカジノ法案は基本法であり、実際カジノが施設が組み込まれた統合型リゾートを実施するには、より細かい規定を含んだIR実施法が成立しなければなりません。
実施法の作成が滞りなく進み、速やかに可決されれば、法的にはカジノ解禁ということになりますが、逆にいえば政治状況によってIR実施法が成立することがなければ、カジノ実現の道は途絶えることになります。
公明党のなかでも反対論が根強くあるなか、スムーズにIR実施法案が可決されるかは不透明です。
そもそも「統合型リゾート」「カジノ合法化」を巡る政治的な動きは、1999年に発表された石原慎太郎元都知事発案の「お台場カジノ構想」からはじまり、その後も、継続的に議論はされてきました。
そして機運が高まったかと思えば、政治的混乱によって議論が立ち消え、また再浮上するという歴史を辿り、ようやく2016年12月ににカジノ法案が可決されたという経緯があります。
政治状況次第で、再び座礁に乗り上げる可能性は大いにあるといえるでしょう。
地方自治体が国に申請しなければ、カジノ実現は不可能
IR実施法案が成立すれば法的にはカジノは解禁されますが、法的に可能になることと、実現されることには、大きな距離があります。
統合型リゾートの建設は、国が指示・命令するものではなく、地方自治体が国に申請を行うことで、可能になるものです。自治体がカジノ誘致を目指すことがなければ、絵に描いた餅に終わります。
もっとも大阪府をはじめとして、釧路市、苫小牧市、東京都お台場、横浜、長崎ハウステンボスなどが候補地として挙がっているのは事実です。ただ、地域住民への十分な説明と理解が進まなければ、国に認定されるのは難しくなります(地方自治体が申請すれば、自動的に認定されるわけではありません。当面のあいだは全国で統合型リゾート施設は3か所程度に限定される予定です)。
参画企業の誘致と選定
「カジノ法案」という俗称から「カジノ」「ギャンブル」が大きく取り沙汰されていますが、カジノ単体での設立は認められていませんし、その予定もまったくありません。
IR推進法でいわれる統合型リゾートとは「ホテル、商業施設、レストラン、劇場・映画館、アミューズメントパーク、国際会議場、展示施設といったものを含む統合的な観光施設」です。そういった施設を用意することがなければ、誘致することは不可能です。
カジノフロアの面積は全施設面積の3%程度に限定するという縛りもあるので、カジノ解禁によって、全国にカジノが乱立するといった事態は起こりません。
むしろカジノ誘致を考えている地方自治体にとっては、統合型施設に投資し、参画してくれる民間企業を見つけ、選ぶことが重要になります。
東京オリンピックに間に合わせるのは不可能
上で見てきたように、カジノ実現にはいくつかのハードルがあります。IR実施法案が提出・可決され、地方自治体が住民の十分な理解を経たうえで国に申請を行い、規模の大きな観光施設の開発に意欲的な民間企業を招聘し、実際に開発を進め、ようやくカジノが日本で誕生することになります。
一時は「東京オリンピック開催までに間に合うように」と謳われていましたが、上記一連の流れをオリンピックまでに行うのはほぼ無理といってよいでしょう。
統合型リゾートが生まれるのは、早くても2022年と予測します。
統合型リゾートの設立で何が変わるのか
いくら統合型リゾートといっても、そのなかにカジノというギャンブルを合法的に行うことができる施設を予定している事実です。
反対する方の多くは、特にこの点に着目しているように思われます。
ここからは、統合型リゾート設立によってどんな影響が起こると考えられるのか、そのメリット・デメリット両面から考えていきたいと思います。
統合型リゾート施設の目的とメリット
統合型リゾート設立の主な目的は、
- 観光産業の振興
- 地方での雇用確保と、それによる経済波及効果
です。
観光産業に与える影響
日本の観光産業は非常に未成熟な段階にあります。2013年に「日本に訪れる観光客が1000万人を突破した」というのがニュースになりましたが、これは特に誇れる数字というわけではありません。韓国の国際観光客にようやく追いついた程度の数字です。
国土面積、経済規模、観光資源、どれを取っても、観光産業を行ううえで、日本は韓国に比べて優位であるはずです。にもかかわらず、韓国とほぼ同程度というのは、日本は観光資源を上手く生かし切れていない証拠です。
日本の観光業の伸びしろは十分にある
逆にいえば、日本の伝統文化、食、サブカルチャーといった資源を生かし切ることができれば、観光産業は伸びる余地は十分にあるといえます。
単に観光資源があるというだけで、自然に観光客が集まるわけではありません。外国人に向けて、観光資源を整備するのと同時に、交通網(特に日本では、空港から都心までにかかる時間が観光業にとって大きなネックになっています)や宿泊施設、レジャー施設などをセットにして打ち出す必要があります。
これら観光インフラを開発、維持するのにはお金がかかります。統合型リゾート開発においては収益性の高いカジノで獲得する利益を、他の利益が出しにくい施設、たとえば国際展示場に充てることもできるという点で大きな期待が寄せられています。
地方での雇用確保と、それによる経済波及効果
いくつかの地方自治体が統合型リゾートの誘致に積極的なのは、誘致成功による雇用の拡大、経済波及効果が期待できるとともに、財源確保にもつながるからです。
飲食業、サービス業の雇用拡大
ラスベガス、マカオといったカジノのある一大観光地域において、たしかにカジノは一つの「売り」ではありますが、そこに訪れる観光客は必ずしもそれを目的にしているわけではありません。ラスベガス観光の目的が「カジノ・ギャンブル」という観光客は10%以下です。
地域全体が一体となって、レジャー、ホスピタリティーあふれる街になることで、観光地としての魅力が増し、より多くの観光客が集まる好循環が発生することがはじめて期待できるようになります。
統合型リゾートの設立によって観光客が増えることで、飲食業、サービス業を中心に、地域の雇用が生まれるのは、既に海外の(成功した)観光地で実証済みです。
雇用による経済波及効果以外にも、カジノでの売上は別途税金を課すことができれば、地方財政にとって、大きな財源になることも期待されます。
統合型リゾート施設の設立によるリスク
ここまでで、統合型リゾートの目的と期待される効果について見てきました。
最後に、カジノ誘致によって引き起こされるリスクを見ていきましょう。
ギャンブル依存症は増加するのか
カジノができることによって、最も危惧されていることは、おそらくギャンブル依存症が増えるのではないかということでしょう。
結論から書くと、カジノができることでギャンブル依存症は増加するものと思われます。基本的にどの国においても、ギャンブル依存症の割合は一定程度あります。新たなギャンブル施設ができ、ギャンブルに興じる人の何パーセントかは依存症にかかるものと見るべきです。
とはいえ、いま日本においてギャンブル依存症患者は500万人以上いるといわれており、新たにカジノができることで、その数字が爆発的に増えるということは考えられません。
既に述べましたが、当面のあいだは全国で3か所程度にとどめる予定であり、カジノに継続的に触れる人はそれほど多く発生しません。
そもそも、日本においてギャンブル依存症が多いのは、いつでもアクセスできる「身近なギャンブル」が多すぎるからです。全日本遊技事業協同組合連合会によると、パチンコ・パチスロの店舗数は全国で1万1000以上あり、競馬や競艇はインターネットなどで購入可能です。
カジノができたところで、極めて数が限定されるカジノにおいて、新たに依存症患者が発生する数は、それほど多いわけではありません。
念のため言っておくと、だから依存症対策は不要だといっているわけではありません。むしろ、IR推進法でも条件として入れられたように、依存症対策は必須です。
ただギャンブル依存症への対策は、カジノのみならず、パチンコ・パチスロ、その他の公営ギャンブルも含めて考えなければ意味がありません。パチンコ業界は依存症対策について、ほかのギャンブル業界に比べると積極的に取り組んできたのは事実ですが、それでも日本におけるギャンブル依存症の原因の多くは、圧倒的にパチンコが占めています。
カジノ解禁によるパチンコ業界への影響については「カジノ法案によるパチンコ業界への影響はなし!パチンコ事業者が企むIRへの進出」で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
犯罪・反社会的組織による治安悪化
反社会的組織がカジノ運営に関与することによって、マネーロンダリングの温床になるのではないかという議論もあります。カジノが暴力団などの資金源になるのではないかという疑念の声も聞かれます。
歴史的には海外のカジノ運営において反社会的組織の関与があったのは事実ですので、このようなことが起こらないように、事業者選定には厳格な背面調査に基づきライセンス発行を行うべきです。
具体的には申請者の犯罪履歴、親族・交友関係の調査、経済的な信用調査は必須です。
さらに施設入場そのものを防止するように、入退場管理制度においてはID(身分証明書)の提示に加え、登録制を取ることも考えられます。
まとめ
観光立国を目指しての統合型リゾート設立にとって、カジノ法案成立はいわば入口にすぎないことを見てきました。まだまだ課題は多く残されており、実現するのは2022年頃になると予想されます。
たいていの物事には、メリット、デメリットの両面があります。
IR推進法が可決した以上、反対の立場の方も、単に「カジノ反対」を声高に叫ぶのではなく、経済効果などプラス面も見据え、同時にリスクをどのように最小化し、どのような規制や対策を講じるかといった観点から考えていく必要があります。
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