【実例豊富】セグメンテーションの意味と具体的なやり方を完全解説

新しい製品・サービスを開発製造する前に、必ずしておきたいことが「STP」と呼ばれる一連のマーケティング戦略策定です。Sはセグメンテーション、Tはターゲティング、Pはポジショニングを意味しています。

STP戦略とは一言でいえば「どのような市場・ユーザーに向けて、どんな製品・サービスを作るのかを決定すること」。この記事では、特にSTP戦略の「S」セグメンテーションに焦点を当てて、解説していきます。

その前に、そもそもなぜサービス展開の前にSTP戦略を立てることが必要なのでしょうか。それはモノが溢れている現在では「万人受け」する商品は存在しないと考えられるためです。

たとえば新しいブランドのシャンプーをつくることを検討しているとします。すでに市場にさまざまな種類のシャンプーが溢れ、ドラッグストアには眩暈がするほどの大量のシャンプー製品が陳列されています。

そこに何の変哲もない「髪の汚れが落とせる」だけのシャンプーを新製品として投下したところで、売れるはずがありません。単純に髪に付着した汚れを落とせるだけのシャンプーであれば、他のシャンプー製品で十分に間に合ってしまいます。

いまの消費者は「自分に合った」商品を求めているのであって、「誰にでも合っている、誰にでも適している」ような特徴のない商品を求めているわけではありません。言い換えれば、自分にフィットする「エッジの効いた」商品が求められているのです。

そのためSTP戦略(「どのような市場・ユーザーに向けて、どんな製品・サービスを作るのかを決定すること」)が必要になってくるのです。

「市場を切り分ける」ことを意味するセグメンテーションは容易に思えるかもしれませんが、実はなかなか奥が深い技術が要求され、時には想像力を働かせる必要があります。

この記事ではセグメンテーションの一般的な解説からはじまり、セグメンテーションを切るうえでのポイントと注意点を見ていきます。さらにセグメンテーションの実例をいくつか紹介します。

この記事を読むことで、セグメンテーションについて深い理解が得られるとともに、その面白さに気づいていただければと思います。

セグメンテーションの意味:市場を「切り分ける」こと

まず大前提として、セグメンテーションの意味を確認しておきます。

セグメンテーションとは「市場の細分化」のことを指します。セグメントは「部分・断片」を意味するので、セグメンテーションとは市場全体を「複数の部分に分割(細分化)すること」だといえます。マーケティングの実際の現場では「セグメントを切る」などということもあります。

具体例を挙げましょう。たとえば、上で例として挙げたシャンプー市場で考えてみます。このシャンプー市場を、最も単純に細分化してみると「男性向け/女性向け」に分けることができます。

もちろん、このようにあまりに単純なセグメントの切り方では、戦略立案としてはあまり有用なものにはなりません(「男性向け/女性向けのシャンプー」だけでは、特性のある商品の開発に結びつけにくいでしょう。もう少し細かくセグメントを切る必要がありそうです)。

実際にどのような観点でセグメンテーションを行っているのか、章を改めて説明しましょう。

セグメンテーションを行う際に使われる主な軸(変数)

セグメンテーションを行う際に、よく使われる分類軸(変数)は、だいたいのところ相場が決まっています。おおよそ次の4つの軸で、市場の細分化が行われます。

  • ジオグラフィック変数……国・地域・都市といった地理的条件に依存する特性
  • デモグラフィック変数……人口統計などにより得られるタイプの客観的・外面的な特性
  • サイコグラフィック変数……消費者の心理的・内面的側面に関わる特性
  • 行動変数……製品に対する買い手の知識・態度の特性

これから、上記4つの軸について詳細を補足していきます。

注意していただきたいのは、これらを機械的に当てはめ、セグメントを切ることには何の意味もないということです。たとえば地理的特性に注目する「ジオグラフィック変数」でセグメントを切ろうと思い、何の考えもなしに「北海道在住/青森県在住/岩手県在住……」と市場を切り分けること自体はできます。しかし、新しいシャンプーを開発するために、そのようなセグメンテーションは有効ではありませんね。

あくまでも「自社のマーケティング戦略を立てるうえで適切な軸は何なのか」という観点を忘れず、どの分類軸を使うのか、都度検討するようにしましょう。

ジオグラフィック変数と実際例

ジオグラフィック変数は「地理的変数」とも呼ばれます。地理的条件に注目して、セグメントを切るものです。ジオグラフィック変数には、以下のものが含まれます。

  • 消費者の居住する国、地域、都市
  • 都市の規模(総人口)、人口密度
  • 気候、風土、文化的背景
  • 交通機関の発達の程度

実際にジオグラフィック変数で市場をセグメントしている例としては、加工食品市場が有名です。東日本と西日本では食文化に違いがあるので、その土地に合った食文化に近い商品を出すマーケティングは有効です。

たとえば日清食品の「どん兵衛」は、東日本と西日本ではパッケージこそ同じですが中身は大きく異なります。東日本では鰹ダシが濃厚で、一方西日本では昆布ダシを効かせています。また油揚げの味付けも変えて、消費者の嗜好にあわせています。

またセブンイレブンが地域によっておでんのダシを変えているのも有名な事例です。

デモグラフィック変数と実際例

デモグラフィック変数は、人口統計などにより得られる外面的・客観的な特性のことを指します。個人の好みに左右されない客観的なデータであること、また統計局など公的機関が公表しているデータが多いため、二次利用が容易であることがメリットして挙げられます。

デモグラフィック変数には、以下の情報特性が含まれます。

  • 年齢/性別
  • 職業
  • 学歴
  • 婚姻歴
  • 家族構成
  • 所得

デモグラフィック変数は客観的な指標で、なおかつデータ加工が比較的容易となるため、セグメンテーションを行ううえで、最も利用されている軸となっています。特に「年齢と性別」でセグメントを切るのは非常に使われている方法です。

マーケティングについて関心を抱いている方であれば「F1層」(20~34歳の女性)といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。これも年齢と性別を掛け合わせたデモグラフィック変数での切り取り方となります。

ファッション誌は、おおむね「20代向け」「30代向け」「40代向け」にセグメントを分けたうえで発刊されているのが有名な例です(10代女性の場合はさらに「中学生」「高校生」「大学生」にセグメントされているように見受けられます)。年代によってファッションの嗜好が異なるので、セグメントを大胆に切り分けつつ、さらに同セグメントにある他のファッション誌との差別化を行うのが一般的な戦略です。

ただデモグラフィック変数によるセグメンテーションは使いやすく、また一定の妥当性がある(ように見える)ため、あまりに多用されている印象を拭えません。「20代向け女性」で切るのか、「F1層」(20~34歳女性)で切るのか、どちらが妥当なのか検討したうえでセグメントを切るのならまだしも「セグメントの決まった切り方」があるかのように、安易に用いられることが多いのです。

たとえば女性向けファッション誌であれば、年代以上にファッションの嗜好でセグメントを切るほうが有効かもしれません(たとえばモード系(ハイファッション)が好きな女性は、幅広い年代にいますし、またどの年代においても少数派でもあります)。

デモグラフィック変数でのセグメントが「使いやすいから使う」のではなく、繰り返しになりますが、消費者のニーズを捉えるのに相応しい切り口を探すようにしましょう

サイコグラフィック変数と実際例

上で見たデモグラフィック変数が外面的な客観的からセグメントを行うのに対して、サイコグラフィック変数は消費者の内面的・心理的特性からセグメントを行うのが特徴です。サイコグラフィック変数には、次のものが含まれます。

  • 個人の趣味、嗜好
  • 個人の価値観
  • 個人の性格
  • 個人のライフスタイル

たとえば「自然派/都会派」といった分け方は個人の価値観を反映したものなので、サイコグラフィック変数として扱われます。またすぐ上で女性ファッション雑誌市場についてデモグラフィック減数ではなく嗜好(たとえば「モード系」)で切ることもできるのではないかと書きましたが、これはサイコグラフィック変数となります。

個人の価値観が多様化しているので、年齢や性別、所得といった切り口ではしっかりと消費者のニーズを切り分けることが難しくなっています。最初から個人の「趣味、嗜好、価値観」を軸としてセグメントを切るほうが有効だと考えられます。

ただ一方、サイコグラフィックの情報として、公式の信頼できるデータが豊富にあるわけではありません。仮にファッションとして「モード系を嗜好する人口」が1%を切っていた場合、そのセグメントに向けて商品を開発したときビジネスとして成り立つでしょうか? おそらく難しいでしょう。そのため、サイコグラフィック変数でセグメンテーションを行う場合は、事前にマーケティングリサーチや市場調査を行うことを検討する必要があります。

 

なお、サイコグラフィックに着目したセグメンテーション、そしてそれに合わせたターゲティングで成功していると思われるのはハーレーダビッドソンだと筆者は考えています。ハーレーは通勤にも使いにくい、騒音はある、決して乗りやすくもない、さらに燃費は悪いと、機能面だけ見ると欠点が目につきます。

ただ「反権威主義」「男らしさ」「自由」といったものに価値を見出す人にとっては、唯一無二の魅力的なバイクとして映ります。まさにマーケティングの勝利といえます。

ちなみに上記の「反権威主義」「男らしさ」に訴求する商品は、ハーレー以外にタバコもあります。特にマルボロは「出る杭は打たれ強い」といったキャッチコピーを作ったり、西部劇さながらのマッチョな男性が荒野に佇む写真を広告に使うなど、セグメントを絞ったうえで訴求が強い広告を作っています(タバコ広告の時代による訴求軸遷移はそれだけで興味深いものなのですが、長くなるのでここでは措いておきます)。

行動変数と実際例

行動変数は、商品に対する消費者の知識・態度の特性に着目する変数を指します。行動変数がセグメンテーションの軸として用いられるようになった要因としては、顧客データの集約が可能になった点が挙げられます。以前はある消費者の商品に対する態度がどのようなものか調べることはほとんど不可能だったのです。行動変数としては次のようなものが挙げられます。

  • 過去の購買状況
  • 使用頻度
  • 購入パターン

POSデータ、さらにはEC(電子商取引)などのIT技術の発達によって、消費者の購買行動がトラッキングしやすくなったため、行動変数を軸としたセグメンテーションもしやすくなっています。

ただ行動変数についていえば、新しい商品開発に向けたセグメンテーションというより、既存顧客へのアプローチを考えるうえで用いられることが多いのが実際です。Amazonでの購買履歴から、ある別の商品のレコメンドを行う、もしくは定期的に使われる消耗品をタイミングよくリマインドするといった、主にインターネット上でのマーケティング戦略策定に使われています。

 

ここまでセグメンテーションを行う際によく採用される軸(変数)について見てきました。

ただこれまで幾度も注意したように、セグメンテーションは機械的に行なえばいいというわけではありません。そこで、セグメンテーションを行ううえでどのような点に気をつければ、適切に市場を細分化することができるのかポイントを説明します。

セグメンテーションを行ううえでのポイント

何回か注意喚起してきた通り、セグメントを切る一般的な方法はあるものの、市場によってどの切り口を使えばいいのかは担当者自身が決めなければなりません。市場を切り分けることは、次に必要となってくるターゲティング(どのセグメントを対象にマーケティングを行うか決定すること)にもダイレクトにつながります。

セグメントをどのように切ればいいのか、そのポイントと注意点を解説します。セグメントを切る上でのポイントは以下の3つです。

  • MECEに分解すること
  • セグメントの質が同質だと考えられること
  • 各セグメントが相応の市場規模を持つようにすること

それぞれについて補足説明をしていきます。

MECEに分解すること

セグメンテーションを行う際に最も基本となるポイントは、市場をMECEに分解することです。

「MECE」(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)という言葉はロジカルシンキングについて学んだ方であれば耳にしたことがある言葉かと思います。MECEとは「モレなく、ダブりなく」ということです。

  • モレがある例……「10代」「20代」「30代」「40代」「50代以上」でセグメントを切る
  • ダブりがある例……「未婚」「既婚」「再婚」「死別」でセグメントを切る

どこにモレがあり、どこにダブりがあるかわかりますか?

 

モレがある例としては「10歳未満」がモレています。あくまでも「市場全体」を細分化するので、すべてのセグメントの総和が「全体」にならなければ、適切なMECEとはいえません。

ダブりがある例として挙げたセグメントの切り方では「既婚」と「再婚」が一部重複してしまっています(既婚者のなかには「再婚者」も含まれています)。この場合は、セグメントの総和が「全体」を上回ることになります。当然、これも適切なセグメンテーションとはいえません。

セグメントを切ったあとは、本当にMECEになっているか必ず確認するようにしましょう。それでも不安が残るようなら周囲の人にレビューしてもらうことをおすすめします。

各セグメントの質が同質だと考えられること

セグメンテーションを行う理由は「いくつかに分けたセグメントのなかから、どのセグメントをターゲットとするか」を検討するためです。

ここで隠されている前提は「ある特定のセグメント集合Xには、特定のニーズを持つ傾向がある(かつ、その傾向は他のセグメント集合に比べて強い)」というものです。逆にいえば、あるセグメントを構成する個々人は一定程度「同質」でなければなりません。セグメントを切ったとしても、ニーズ・趣味・嗜好がバラバラなのであれば戦略を立てることはできません。

極端な例を挙げますが「偶数日に生まれた人」「奇数日に生まれた人」にセグメントを分けるとしましょう。「偶数日に生まれた人」に、(奇数日に生まれた人に比べて)何らかの強い傾向が見られるとは考えにくいでしょう。強い傾向性が表れるようにセグメントを切ることを意識しないと、このようなおかしなセグメントの切り方になってしまうかもしれません。

もちろん各セグメントの質が「同質」であるというのは、構成員全員が同じ嗜好を持つという意味ではありません。「一定程度同質であればいい」「それなりに同質だと考えることができる」レベルで大丈夫です(世界に「まったく同じ人」は存在しないので当たり前です)。

各セグメントが適正規模の市場を持っていること

セグメントを切る上での最後のポイントは「あまりに細かく切りすぎないこと」です。セグメントを細かく切っていけば切っていくほど、傾向性がはっきりしてくるのは事実です。またその結果、マーケティング戦略も立案しやすくなるかもしれません。

ただ一定の規模を下回る「小さな市場」をターゲットとすると、ビジネスとして成立しなくなることを忘れないでください。

MECEに市場を分割して、きちんとセグメントごとの特色が見えるような切り口を見つけたとしても、日本全国で100人しかいない市場をターゲットにする場合、ふつう継続的な事業運営はできません。

あまりに細かいセグメントになっていないか、相応のボリュームは確保できているのかといった観点からもチェックしましょう。

以上が実際にセグメントを切る際のポイントと注意点です。上記の点に気をつけたうえで、どのような切り口で市場を分けるのが有効なのか想像を巡らせれば、きっとすばらしい市場の細分化ができるはずです。

【実践編】セグメンテーションの具体例を紹介

最後に具体的にどんな会社が、どのようなセグメントの切り方をしているか紹介します。参考になる例ばかりだと思いますので、ぜひご覧ください。

歯磨き粉市場のセグメンテーションの例:基本編

まずは「歯磨き粉市場」を例にセグメントを分けてみましょう。

歯磨き粉市場のセグメントの分け方として考えられるのは、歯磨き粉にユーザーがどのような「機能」を求めているのか、そのニーズに着目するというものです(サイコグラフィック変数による分類)。

すると「虫歯予防ニーズ」「爽快ニーズ」「歯周病ケアニーズ」「ホワイトニング(美白)ニーズ」「口臭予防ニーズ」というように分けることができます。さらにそこまで機能にこだわりがない「低価格ニーズ」を加えると、市場全体に対してセグメントを切ることができます(実際に市販されている歯磨き粉はおおよそいずれかの「市場/ニーズ」にターゲットを絞り込み、広告・PRを行っていることを確認してください)。

再度の注意喚起となりますが、ある市場に対してどのような変数を使えばいいのかは予め決まっているわけではないことを覚えておきましょう。そういう意味では、最も効果的なセグメンテーションをつくるのは、経験と技術とマーケット感覚が要求される一種の「芸術」といえるかもしれません。

具体例として、次に独自のセグメントの分け方で、マーケティングを成功させた事例をみていきましょう。

「市販コーヒー市場」のセグメンテーション:ワンダモーニングショット

ここでは「市販コーヒー市場」を例に挙げます。コーヒー市場をどのように分けるのが効果的でしょうか。すぐに考えられるのは「コーヒーに求める嗜好」によるセグメンテーションでしょうか(苦みが強い、カフェイン濃いなど)。

ただここで紹介する成功事例は、市販のコーヒー飲料の消費者を「飲む時間」にあわせてセグメントを切ったというものです。

斬新な市販コーヒー飲料市場のセグメンテーション……「朝に飲む人」「昼に飲む人」「夜に飲む人」

市場を時間帯で分け「朝」に飲む人に向けて訴求したのが「朝専用」という強烈なキャッチコピーをつけたアサヒ飲料の「ワンダモーニングショット」です。それまでコーヒー市場で使われていた「消費者の年代×性別」「消費者の嗜好」のマトリクスを大胆に変更することで、ワンダモーニングショットは大きな成功を収めたのです。

すでにお気づきかもしれませんが、ワンダモーニングショットの例でわかるように、どのようにセグメンテーションを行うかは、ターゲティング、そしてポジショニング、さらにはプロモーションと切り離すことができません。

STP戦略が全体として美しい一貫性を持つことを、セグメントを切る段階でしっかりと意識しておくことが重要です。

まとめ

この記事では、STP戦略を立てるうえで必要となるセグメンテーションについて豊富な具体例とともに解説してきました。

「性別×年代」で掛け合わせたデモグラフィック変数を使うと、慣れれば簡単にセグメントを切ること自体はできます。ただ首尾一貫した戦略を立てるために行うセグメンテーションは、機械的に行えばいいというものではありません。

成功した商品が、どのようなセグメンテーションターゲティングポジショニングの連携をはかっているのか考えることでマーケティング戦略のレベルが格段に上がります。

この記事を参考に、どのように市場をセグメントすればいちばん有意義な戦略に結びつくのか検討を進めることを願っています。

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