この記事にたどり着いた方はおそらく「バリューチェーン分析」という言葉を耳にされた方かと思います。このバリューチェーン分析について、いろいろな疑問をお持ちではないでしょうか。
「バリューチェーン分析について調べてみたけど、よく理解できない」
「バリューチェーン分析ってどういうふうに進めればいいの?」
バリューチェーン分析について苦手意識を持つ方は少なくありません。実際、PEST分析や3C分析についてはイメージできるものの、バリューチェーン分析についてはよく実感できない方が非常に多いのです。
それはバリューチェーン分析を行う際には、事業を非常に俯瞰的に見ること(全体像を捉えること)が要求されること、また場合によっては自社だけではなく取引先まで考慮に入れる必要があるからだと考えられます。
その意味では、バリューチェーン分析は、必ずしも自分が直接担当しているわけではない仕事も視野に入れなければならない難易度の高い分析だといえます。
ただ逆にいえば、バリューチェーン分析を通すことで自社が行っている戦略全体を捉えることができ、また改めて自分たちの事業の強みと弱みを認識することができる良い機会となります。
ぜひバリューチェーンという概念を通して、自社の戦略をゼロから捉え直してみてください。そうすることで、マーケティング計画はより精緻なものになっていくことでしょう。
この記事では「バリューチェーン」のわかりやすい説明からはじめ、バリューチェーン分析の方法と流れを解説していきます。
この記事を読むことで、バリューチェーン分析を一通り行うことができるようになっているはずです。ぜひ参考にしてください。
「バリューチェーン」を一言でわかりやすく
それでは「バリューチェーン」の説明にまいります。バリューチェーンは英語で書くと”Value Chain”となり、そのまま日本語に直訳すると「価値連鎖」ということになります。
ただいきなり「価値連鎖」といわれてもイメージがつきにくいかもしれません。しかし、あまり難しく考える必要はありません。たとえば製造業であれば「原材料の仕入れ」「製造「販売」「プロモーション」など、事業はさまざまな工程に分解することができます。
その各工程を切り分けて、付加価値が各工程でどのように生まれているのか、「価値(=バリュー)がどのように連鎖(=チェーン)しているのか」を把握するのがバリューチェーン分析だといえます。
工程を細かく切り分けることで、自社のバリューチェーンのなかでどこが強みになっているのか、あるいは課題はどこにあるのかを特定しやすくするのです。
バリューを一つ一つの「チェーン」に分解して、さらに各チェーンを捉えることで、さらに精度の高い自社分析を行うことができるようになります。
具体的にバリューチェーン分析をどのように進めればいいのか、次に詳しく見ていきましょう。
バリューチェーン分析の進め方を解説
いよいよ、ここではバリューチェーン分析の進め方を実践的に解説していきます。
バリューチェーン分析という手法は、著名な経営学者であるマイケル・ポーターが最初に唱えたもので、基本的にはポーター自身の分析に倣った説明をしますが、一部分かりやすいようにアレンジしているのでご了承ください。
バリューチェーン分析のおおよその流れは、次のようになります。
- 事業のバリューチェーンを「見える化」する
- 各工程のコストを見積もる
- 関係者を集めて各工程の強みと弱みを洗い出す
- VRIO分析など他の分析手法と組み合わせながら戦略を立てる
それでは、上記の流れに沿って解説していきます。
まずは自社のバリューチェーンを「見える化」する
バリューチェーン分析に限らず、あらゆる分析にいえることですが、何よりもアウトプットして「見える化」することが大切です。どれだけ自分の頭に自信をもっていても、必ず頭の中だけで整理せず、ホワイトボードなり、エクセルなりに書き出して整理しましょう。
特にバリューチェーン分析を鋭いものにしたいなら、最終的には自分だけではなく他部署の人とのディスカッションが必要不可欠です。議論の前提を揃え、コミュニケーションミスを生じさせないためにも、バリューチェーンのアウトプットと、その共有は徹底するように気をつけるべきです。
さて、バリューチェーンを書き出す際の留意点が2つあるので、ここで簡単に触れておきます。
- 企業活動は「主活動」「支援活動」にわかれる
- 業種によってバリューチェーンの形は異なる
これだけでは、なかなか理解するのが難しいかと思います。それぞれ補足しておきますので、もう少しだけお付き合いください。
企業活動は「主活動」と「支援活動」に分かれる
ポーターによれば「企業活動」と一口にいっても「主活動」とそれを支える「支援活動」に分かれます。
- 主活動……商品・サービスが消費者に届くまでの流れに直接関係する企業活動
- 支援活動……商品・サービスが消費者に届くまでの流れを間接的に支える企業活動
具体的にいえば、主活動とは「購買」「製造」「出荷」「販売・マーケティング」「サービス」などを指します。
一方、主活動を支える支援活動として具体的に挙げられるのは「技術開発」「人事・労務管理」「財務会計」といったものになります。いわゆる間接部門、バックオフィスと呼ばれる領域だと捉えておけば問題ありません。
以上に挙げた主活動、支援活動は、あくまでも一例でしかありません。業種ごと、もっといえば会社ごとによってバリューチェーンの中身が変わることがあります。どういうことか具体例を挙げて解説します。
【補足】バリューチェーンの内容は会社によって異なる
すぐ上で挙げた例の場合「製造業」にはかなり広く当てはまるかもしれません。しかし当然ですが、会社によって事業形態は異なります。自社の業態に相応しい、適切なバリューチェーンを描く必要があります。
EC事業のバリューチェーンの例
たとえば自社で直接仕入れを行い、消費者に売るEC事業を営んでいる事業の場合は、バリューチェーンは次のようになります。
世界一のEC企業はAmazonですが、大雑把ではあるものの、上のようなバリューチェーンを描けそうです。そして各工程のどこにAmazonの強みが生かされているのかについても、上の図を見ながらリサーチすれば見えてくるはずです。
「仕入れ」の面では、莫大なキャッシュフローと巨大な倉庫を持っているところ、「集客」もまたPPC、SEOに強く、そしてブランド力があるため強みを持っているといえるでしょう。また出荷物流についても継続的に強化しています。
逆に「アフターサービス」についていえば、Amazonはリアル店舗には及ばないというのが一般的な理解ではないでしょうか。
ここまでくると、全国に張り巡らされたな物流ネットワーク、大量の商品を仕入れることができる資金力、優れた広告運用や知名度による集客力が「Amazonが世界一のEC企業」であることの理由なのではないかという仮説を立てることができます。
加工食料品メーカーのバリューチェーンの例
では、加工食料品(ハム、清涼飲料水、製菓など)メーカーの場合、バリューチェーンはどのようなものになるでしょうか。一般的には次のようになると考えられます。
このように事業のバリュー(価値)の源泉を一つひとつの工程に分けていくことで、自社がどこに強みを持っているのか、早急に対処すべき課題はどこにあるのかをあぶり出すことができるのです。
分析の結果、他工程には問題がないにもかかわらず「流通」が弱いことがはっきりすれば、全国のスーパーやコンビニに商品を置いてくれるよう交渉する営業部隊の強化を行うべきだという判断をすることができます。
このように自社の事業に合ったバリューチェーンを描くことで、分析から対処法の作成までスムーズに進めることができます。
しかし、バリューチェーンを描くだけで、自動的に優れた戦略にたどり着くわけではありません。バリューチェーンをつくったあとに、どのように分析を進めるのかみていきましょう。
各工程のコストを算出する
「自社の工程のここが強そうだ」「ここに課題があるのでは?」と漠然と分析を進めても、あまり意味があるものにはなりません。
まず各工程においてどれだけのコストをかけているのか算出し、それだけのコストに見合った収益性がその工程において発生しているのか客観的に見ていくことが必要です。
また人件費もコストの一部となるため、担当部署と担当している人月もアウトプットしておくと、分析がしやすくなります。
工程 | コスト | 担当部署(人員) |
商品開発 | 1,500万円 | 商品開発部(6名) |
製造 | 2,800万円 | 製造部(20名) |
…… | …… | …… |
一人の人間が複数の事業部を横断して仕事をしている場合は、どれだけの時間をどの事業部に使っているかを割り出し、適正な按分を行うことにも注意を払っておきたいところです。
バリューチェーンを洗い出し、どれだけのコストをかけているのか見えてきたこの段階で、バリューチェーン分析を行う準備はほぼ整っています。ここからは、より多くの人を巻き込んで進めることが重要となります。
いよいよ関係者を集めて、各工程の強みと弱み(課題点)を特定するステップに移行することになります。
関係者を集め、各工程の強みと弱みを洗い出す
記事の冒頭でも軽く触れましたし、またここまで読み進めた方なら想像がつくかと思いますが、バリューチェーンは「上流から下流までの事業全体の流れ」です。
分析を任されているのが、たとえ全体を管理しているプロジェクトマネージャーであったとしても、すべての工程について細部まで把握できていないはずです。そこで、各工程を直接担当している現場の声を拾うことが必要不可欠になります。
わざわざ事業全体の流れを細分化して、課題の特定を行うときには、偏ることのない広い情報を収集することが重要です。決して分析担当者だけの意見を反映しないように、可能な限り多くの人からヒアリングすることをおすすめします。
ヒアリングやディスカッションを経て、この段階では各工程の評価項目を作成しておきたいところです。
たとえば「原材料調達」であれば、次のような評価項目が考えられます。
- サプライヤーに対して十分な交渉力をもっているか
- 複数のサプライヤーを確保しており、十分な原材料を確保できているか
- 原材料の品質は自社の要求水準を満たしているか
上のような評価項目についても、感覚で「良い/悪い」を判断するのではなく、できるだけ数字に基づいた客観的な根拠によって判断するようにしましょう。
たとえば「十分な交渉力があるか」については、「ここ半年で値上げの要求が○回あった」「同業他社の平均仕入れ価格より、自社は○%低くおさえられている」といった事実を多く集めることで、正確な評価・採点につなげることができます。
バリューチェーンの各項目の評価項目の作成は、ファイブフォース分析やVRIO分析などをすでに行っていれば、比較的容易にできます。ただあなたが携わっている事業が特殊なものであったり、世の中にまだ存在しないような革新的なサービスである場合には、他に見落としている評価項目はないか、繰り返し確認しておきましょう。
ここまでいけば、バリューチェーン分析の完了まであと一歩といったところです。最後に各工程の評価項目の採点をさらに精密なものにして、最終的に適切な戦略を立てることが大切です。
ビジネスにおける「分析」は分析で終わってはならず、必ず具体的な戦略・行動に落とし込むところまでもっていって、はじめて意味をもつことを肝に銘じておきましょう。
VRIO分析などを組み合わせて、戦略を立てる
ここまでで、事業のバリューチェーンを洗い出し、次に各工程のコストを算出して、分析の準備を整えてきました。さらに強みと弱みを関係者でディスカッションを行い、特定し、それぞれの工程における評価項目を設定してきたはずです。
あとは、一つ一つの評価項目に対して適切な評価をくだしていくのみです。
その評価の際に使いたいのがVRIO分析です。VRIO分析とは「Value(価値)」「Rarity(希少性」「imitability(模倣可能性)」「Organization(組織)」の観点から、自社の強みを判定する分析手法です(VRIO分析について詳しくは「自社分析の基本!「VRIO分析」の進め方と注意点を徹底解説」を参照してください)。
このようにバリューチェーンを因数分解して、それぞれ競合他社と比較してどれだけの強みを持っているか明らかにしたうえで、今後の戦略を立てなければなりません。戦略を立てるうえでは、さまざまな視点が必要ですが、たとえば
- 削減できるコストはないか
- いまのリソース配分は最適なものになっているか
- この工程の参入障壁を高めて、競合を排除することはできないか
といった点に着目するのもいいでしょう。あとは計画に落とし込み、担当をつけて、行動に移すのみです。
まとめ
この記事ではバリューチェーン分析の概要からはじめ、実際の分析の進め方から注意点まで詳しく解説してきました。
バリューチェーン分析が難しいのは自分たちの事業全体を捉えつつ、しかも一つひとつの「バリュー」について詳細に見ていかなければならないという矛盾を成立させなければならないところにあります。
ただし、その難しさに正面から立ち向かうことで、自社のどこが弱みがあるのか見え、自分たちが向かうべき方向を知ることができます。
またバリューチェーン分析の場合は、関係各所での議論が必要になることから、そこから出てきた決定も広くメンバーの合意・納得が取りやすいというメリットもあります。
慣れないうちは難しいと思いますが、ぜひ果敢にチャレンジしてください。
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