金融リテラシー低い社会人に最適『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』書評

山崎元氏と大橋弘祐氏による『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』は、金融リテラシーの低めの社会人のために書かれた、とても有益な本である。

難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!

難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!

  • 作者:山崎元,大橋弘祐
  • 出版社:文響社
  • 発売日: 2015-11-11

本書を読むべき人

もう少し具体的に、この本を読むべき人を挙げるとしたら、

  • 「金融」についてはそこまで興味がない。難しそうだと思うし、理解するために多大な時間を使いたくはないそれでも、お金のことは気になる。やっぱり将来どうなるかわからないし、不安だ。

 

  • たまに雑誌で見かけるような「株で1億儲ける」とか、そんな大それたことは考えていない。第一そんなのこわいし、危ないじゃないか。PERとかROIって、何? ボラティリティ? リスクプレミアム? そんなの知らないよ。

 

  • それなりに安全なところにお金を置いておいて、あとは放っておくのが楽でいい。リスクが低くて、それでもいまの定期預金よりは高いパフォーマンスが出れば御の字。

 

  • 「賃貸vs持ち家」どっちがいいとか、生命保険には入ったほうがいいのかとか、よくあるお金に関する疑問にしっかりとした考え方を教えてほしい。

というような、ズボラで、あまり勉強をしたくない人向けの本である。

 

そういう人には、ロバート・キヨサキの『金持ち父さん』シリーズよりずっと敷居が低く、そして実行に移しやすいという点でも、本書のほうがずっとお薦めできる。

 

本書に書かれていることを鵜呑みにして(もちろん、本書で書かれている内容をきちんと検証して納得するのが一番だろうが、そんなことをするのが面倒な人が本書を手に取っているはずだ)実行するだけでも、ふつうに会社で働き、お金を稼いでいる一般人にとっては、必要にして十分な資金運用ができるだろう。

 

以下、本書の長所を挙げながら、簡単なレビューをしてみたい。

【長所1】金融業界の「不都合な真実」をぶっちゃけている

特に好感が持てるところは、金融機関に所属していながら、金融商品の「不都合な真実」を山崎氏がぶっちゃけているところである。

 

たとえば、大手銀行が提供している外貨預金が、控えめにいって「ぼったくり」であることは、多少なりとも金融商品について調べたことのある人にとっては常識だが、それほど詳しい人でなければ、そんなことは知らない(仮にもし、どうしても円に信用がおけず、資産の一部を外貨に換えておきたいならレバレッジを効かせないで、FX口座を開設するほうがよほど得だ。手数料は、銀行の10分の1以下というのもまったく珍しくない)。



それを「ぼったくりだから、そんなのはやめておけ」ときちんと言ってくれる金融機関の中の人は、なかなかいない(高収益を生むサービスなのだから当たり前といえば当たり前である)。

 

ところが、本書では「ぼったくり金融商品」を、金融商品を扱っている会社に所属している山崎氏が空気を読まず、バッサバッサと切り捨てていく。その容赦のなさ、あっけらかんとした様は壮観ですらある。

 

銀行のあくどい金融サービスに騙される前に本書を読んでおくのは、防御手段としても非常に有効である。(「銀行の無料相談口にいる人なんて羊の皮をかぶった狼だと思ったほうがいい」という発言には大笑いさせてもらった)。

【長所2】資産運用について取るべき行動方針がはっきりしている

しかし「ぼったくり金融商品」を「ぼったくり」と言ってあげるだけが本書の価値ではない(いや、そう言ってくれるだけでもかなり価値は高いのだが)。

 

悪い商品に騙されない、引っかからないようにするというのは、いわば防御策で、ではどのようにお金を楽に運用すればいいのかのほうがずっと気にかかるし、影響は大きいだろう。

 

この点も本書は、明快かつ、すぐに実行に移せるプランを提案している。それは別に決してユニークなものではなく、むしろ非常にオードソックスなものである。そして、そのオードソックスな方法が、それほど金融について知らない人にとって最善だろう。

 

本書が推薦するお金の運用方法は、恐ろしく簡単である。

  • 当座の生活資金(月給の2倍から3倍程度)は、手元に残しておけ。

 

  • 資産のなかでも安全に保ちたいものは「個人向け国債 変動10年」にぶちこめ。

 

  • 少しリスクを取ってもいい分は、投資信託のインデックスファンド。日本のインデックスファンドと海外のインデックファンドが5:5になるように調整しろ。

これで、終わりだ。

 

これは100点満点の回答ではないかもしれないが、ほぼ間違えることがなく、また平均点よりはずっと高い「間違いのない」お金の運用方法だといえる。

 

資産の多くは毀損されることはないだろうし、また分散投資(俗にいう「一つの籠に、卵をぜんぶ入れるな」というやつである)のお手本でもあるし、無駄な手数料がかからないし、「複利の力」も活かされるような親切設計になっている。

 

インデックスファンドを自分で購入するのも面倒な人向けには、最近ではコンピュータアルゴリズムやAIを使って、自分に最適なアセットロケーションを提案・運用してくれるロボアドバイザーというサービスも検討してもよいだろう。

 

ロボアドバイザーについては「いま注目の「ロボアドバイザー」とは?そのメリット、注意点を徹底解説」で解説しているので、興味がある方は参考にしてほしい。

お金の使い方の考え方の指針も充実している

しかし、運用するだけが、ふつうに生活している人の「お金の問題」というわけではない。お金の使い方もまた問題である。

 

普段の生活の小さな節約もまた大切だが、やはり大きな金額を使うかどうかという決定のほうが、大きく生活に影響を及ぼす。

 

たとえば「家を買うか」「保険に入るか」(人によっては「車を買う」も入るかもしれない)という選択である。

 

家についていえば、それが高額で、しっかり検討しなければいけないということは、たいていの人が認識していると思う。

 

一方で、保険については、積み重ねればかなりの高額になるのにもかかわらず、その金額にあったぶんしっかりと検討・考慮していない人が意外に多いのではないか。保険は、プランによっては1000万円程度払うことにもなるので、入るにしても入らないにしても、しっかりと計算する必要がある。

 

「持ち家」「保険」の問題についていえば、正直に言って、個々人の価値観に大きく左右されるものなので、これといった正解はないように思う(本書では「賃貸」「保険には入らず、その分貯金をしておけ」というのが暫定的な結論となっている)。

 

だが、本書で指摘されているような考え方、たとえば「持ち家」を買うためにローンをすれば、それは銀行員の給料まで支払うことになるといった考え方や、保険というのは本質的に「ほとんど起こらないが(確率的には低いが)、起こったときに莫大なお金がかかるものに有効」(だから、自動車保険には意味があるけれど、癌保険はあまりしないほうがいい)というような考え方は、結果的に何を選択するかは別にして、その結論に至るまでにどのような観点から考えるべきか大きな参照枠となってくれる。

 

その他、NISAや確定拠出年金など、比較的新しい話題も盛り込みつつ、お金の運用について、あくまでもスタンダードな説明をしている本書は、金融リテラシーが低く、また特に高めようと考えていない社会人にとって最適なメニューを提供している。

 

まとめ

個人的には、お金のスタンダードな教育はいまの日本でもっと行われるべきだと思っているのだが、正規の教育ではそれが用意されていない。となると、「副読本」や「一般書」がその役を代行する他ない。

 

そして、その役目を果たしてくれるものはわずかながら、存在する。

 

たとえば、私見を述べると、小学生には『学校では教えてくれない大切なこと3 お金のこと』、そして中学生にはサイバラの『この世でいちばん大事な「カネ」の話 』が鉄板である。

 

そして、新しく社会人向けとしてまず読むべきお金の本としては、本書『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』が最適である。

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