保険業界を襲うフィンテックという波”InsTech”

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フィンテックという金融と技術を掛け合わせた応用技術は、いま保険業界に及んでいます。

特に保険業界のテクノロジー化のことは、Insurance(保険)とTechnology(技術)とを組み合わせ、”InsurTech”と呼ばれています(”InsTech”と略す場合もあり、第一生命ではこの呼び名を採用しています。しかし、海外ではどちらかというと”InsurTech”と呼ばれることが多いようです)。

この動きに既存の大手保険会社も、遅れを取らないように、積極的にIT技術の取り込みを図っています。

第一生命は日本IBMと提携し、糖尿病の発症リスクの予測、重篤化を防止する健康改善、治療モデルの構築を、膨大なデータのデータベース化とその解析によって、成し遂げようとしています。
また、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険はFitbit社からウェアラブル端末を借り受け、社員の健康増進をはかるとともに、そのデータを利用して疾病と行動の因果関係を分析する取り組みを検討しています。

しかし既存の保険会社だけがITの活用を図っているわけではありません。

いま、InsTechはどのような状況にあり、今後の保険業界はどのように変化していくのでしょうか。

この記事では、保険業界におけるIT技術の進出が、どんな影響をもたらしているのか詳しく解説したいと思います。

保険業界は情報が最大の資源

保険業界にとって最も重要な経営資源は、情報です。

生命保険なら、顧客の性別、年齢、病歴をもとに、過去の統計から死亡者数を予測し、保険料を割り出しています。情報がなければ、適切な保険料を求めることすらできません。

しかし、同じ年齢で、同じような病歴を持っている人のなかでも、健康的な生活を送れるように食生活の見直し、適度な運動、十分な睡眠を取っている人もいれば、不摂生な生活を送っている人もいます。

本来であれば、長生きする見込みがありそうな「健康的な生活を送っている人」はもっと保険料は安くてもいいはずです。逆に不摂生な生活を止めない人には高額な保険料が課せられて然るべきでしょう。

自動車保険であれば「事故を起こしやすい乱暴な運転をする人間」は、通常より高い保険料を要求できるはずです。

しかし保険会社と、その顧客のあいだには「情報の非対称性」があります。

顧客は、自分の健康状態や生活習慣を知っていますが、保険会社は知ることができません。自分が知っている、自分にとって不利な情報を隠すことができる場合、わざわざ保険会社に告白することは期待できないでしょう。

つまり、これまでは顧客情報を保険会社が「知ることができる範囲」において、保険料を決定していたわけです。

逆にいえば、「知ることができる情報」を拡大し、より有効に活用することができれば、保険サービスはもっと適切な制度、仕組みをもった充実したものになるでしょう。

ビッグデータによって保険業界は大きな影響を受ける可能性がある

これまでは保険会社だけが、契約をもとに「事象の発生確率」を独自に算出していました。

しかし、スマートフォンの普及、ウェアラブル端末の誕生によって、人々の生活の記録情報(ライフログ)を低コストで収集することが可能になっています。いわゆるビッグデータです。

保険会社に限らず、膨大な情報によって、ある特定の出来事(病気になる、事故を起こす、借金の返済が不可能になるなど)が起こる確率を、かなりの程度正確に求めることができるようになっているのです。

「情報の非対称性」はまだ残っていますし、これからも残っていくでしょうが、それでも非対称性は劇的に縮小しているのが現状といってよいでしょう。

自分の生活情報が収集されることを感覚的に気持ち悪く感じる方もいらっしゃるかもしれません。また自分にとって不利な情報も収集される可能性が高まれば、それだけ保険料を高く支払うことにつながりかねません。

ですが、保険会社が多くの情報を正確に知ることによって、その人に合ったサービスを提供することができるのも事実です。また優れた顧客には、保険料を安くすることもできるようになります。

実際に、保険業界がビッグデータをどのように活用しているのか、次に見ていきましょう。

医療保険におけるテクノロジーの活用事例

医療保険を提供している会社は、加入者が健康であればあるほど、支払いは減ります。健康であることを望まない加入者もいないでしょうから「加入者が健康であること」というのは、双方にとってメリットのあることです。

そこで、加入者に「健康になる」ことへのインセンティブを提供する医療保険会社が出現しました。

たとえば、フランスの保険会社AXAは、Fithings社のウェアラブル端末を無料配布して、一ヶ月間毎日7000歩歩いた契約者に代替医療(整体、フットケアなど)を受けられるチケットを提供しています。

アメリカのOscar社でも、似たようなサービスを提供しています。こちらもウェアラブル端末を提供して、契約者に応じた「一日の運動目標」を設定し、この目標をクリアした契約者に1ドルのアマゾンギフトカードを提供しています。

ちなみにこのOscar社は「アメリカの(壊れている)ヘルスケアを建て直す」という大きな理念を掲げており、上のインセンティブ以外にも、医師との電話診察、ワクチン検査の無料提供など、契約者の健康増進に積極的に関与しています。

自動車保険におけるテクノロジーの活用事例

テクノロジーの活用は、医療保険だけではありません。自動車保険でも、テクノロジーの活用が目立っています。

アメリカのMetroMile社は、自動車の機器とGPSデータを利用して、契約者の走行距離を計測し、それに応じた保険料を算出しています。

さらにすごいのは、Progressive社です(こちらもアメリカの自動車保険会社)。

Progressive社が提供している専用装置を、自動車に取りつけることによって、走行パターンを記録し、どれだけ安全に運転しているかを分析し、その安全性の度合いによって、保険料を割り引くというサービス(サービス名はSnapshot)を提供しています。CMもあります。

自動車保険については、FinTechとは別のテクノロジーの脅威があることも知っておきたいところです。Googleが積極的に推し進め、他の主要自動車メーカーもこぞって研究・開発に邁進している「自動運転」の技術がそれです。

自動運転が普及すれば事故が起こる確率は、現在よりずっと低くなることが予想されます。また、事故を起きたとき、それを引き起こしたのはドライバー(そもそも「ドライバー」ではなく、ただの乗車者と呼ぶべきかもしれません)とはいえなくなります。

メーカーの責任になるのか、プログラマーの責任になるのかは不明ですが、場合によっては自動車保険の存在そのものがなくなることも考えられます(もしくは、自動車保険の主要顧客が自動車会社になるといった業界の大変動が起きることもあるかもしれません)。

関連記事:自動運転の実現で責任は人からシステムへ/変わる自動車保険

テクノロジーは、保険業界にも大きな影響を及ぼし、その流れはしばらくは続きそうです。

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